フレクサレットとの出会い

Prague, 2012

恥ずかしながらフレクサレットというカメラをプラハに行くまで知らなかった。プラハに着いて何となくプラハのカメラ屋さんを覗いてみたいと思い、 ホテルの部屋の回線の遅い無線LANを使って調べてみたのだった。調べると、プラハのカメラ屋のディスプレイを撮った写真を載せたブログはいくつか見つかる。中判カメラや蛇腹のカメラが並ぶそのディスプレイの様子は僕を虜にさせた。

ホテルのインターネットで得た情報は2つ。店名はFoto Skoda、建物の名前はLANGHANS。地図はない。その情報だけを頼りに町を歩き、店を探し続けた。もちろんその頃はまだフレクサレットなんて言うカメラは知らなかったし、ただプラハのカメラ屋を覗いてみたいという欲だけである。

プラハの冬はあっという間に暗くなる。日も暮れかけてきた頃、"Foto"の文字を道沿いに見かけた。思わず見逃しそうになる間口の狭い店であった。間口は狭いものの奥行きは非常に長く、奥にはたくさんのカメラが並べられていた。その時もまだ何かを探し求めていた訳ではなかった。不意に自分のiPhoneを見ると、いつの間にかWi-Fiに接続していた。店内は無料の無線LANが整備されているのだ。そこで試しに"プラハ　中古カメラ"と調べてみる。そこで初めてFlexaretというカメラのことを知る。店内でFlexaretを探してみると、確かにショーケースの一角に二眼レフが多数並べられていた。

その場で思わず購入した、というわけではない。Flexaretを知ったとはいえ、海外の店で、しかも今まで触ったこともない二眼レフを購入するにはあまりにも抵抗が大きかった。その日はその場を後にした。

といってもすぐに忘れることもできない。その日の夜はインターネットでフレクサレットのことをあれこれと調べていた。１型から7型まであり、最も新しいのは7型だが、6型がカメラとしては最も安定しているという。プラハのあるボヘミア地方はガラス細工で有名で、カメラのレンズも性能が良いこと、などであった。

その夜は悩み続けた。といっても価格は問題ではない。日本円にして数千円で手に入れられるものなのだ。問題は本当に使いこなせるのか、使うのか、ということであった。コレクションとしてのカメラは要らない。

結局朝になっても心を決められず、翌日は予定通りプラハ城の方（つまりカメラ屋とは真逆の方向）を散策した。ヴルタヴァ川沿いの景色はやはり美しい。そうだ、この美しい景色をチェコ製のカメラで撮影して記憶に残したい。

プラハ城の散策を終えた私の足はカメラ屋に向かっていた。今日もたくさんのフレクサレットが店には並んでいる。店員さんにフレクサレットを見せてほしいと頼むと、「カメラのコレクションのために買うならこれが良いよ」と薦めてくれた。もはやフレクサレットを実用目的で購入する人はいないのだろうか。それでも僕は使えるカメラを求めている。「ちゃんと写真が撮れるものが欲しい」と告げると、店員さんはフレクサレット6型を出してくれた。「2眼レフは初めてで、使い方を教えてくれるとありがたいんだけれど」と言うと「そんなの簡単さ、ここがシャッターでここが絞り、上から覗き込んでピントを合わせれば大丈夫だ。」その言葉を信じ、僕はその店員さんのお勧めのフレクサレットを購入した。店員さんは親切に革のオリジナルケースもおまけで付けてくれた。革のケースの底蓋にはそのケースが本物のフレクサレットのものであることを証明する小さなシールが付いている。このシールは貴重なんだ、と店員さんは言うと、笑顔でそれを僕にくれた。もちろん忘れずに120版のモノクロフィルムも購入した。

これがフレクサレットと僕との出会い。